2020年にプログラミング教育が小学校で必修化され、その後、中学、高校でも導入されました。また、2025年には大学入学共通テストに「情報」が追加されたのも記憶に新しいです。
この記事では、プログラミング教育の今の姿や入試の内容、さらに、これからプログラミング教育がどうなっていくのかについて、文部科学省の発表資料や各種調査をもとにわかりやすく解説していきます。

目次
2. 大学入試「情報」って?
(1)プログラミング教育の目的と授業内容
プログラミング教育の必修化の目的は、子どもたちがこれからの情報化社会を生き抜くための基礎的な力を育むことです。文部科学省の「小学校プログラミング教育の手引」によれば、そのねらいは大きく三つにまとめられます。
1. プログラミング的思考の育成:自分が意図する活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのかを論理的に考えていく力を養います。
2. 情報社会に対する気付きと態度の育成: プログラミングを通じて、コンピュータが日常生活を支えていることに気づき、その仕組みに関心を持つこと。また、コンピュータ等を活用してよりよい社会を築こうとする前向きな姿勢を育みます。
3. 教科の学びをより深める: プログラミングの活動を通じて、算数や理科など他教科の学びをより確実に理解することができます。たとえば、算数で正多角形を描く学習にプログラミングを組み合わせることで、図形の性質への理解が深まるといった具体例が示されています。

これらの目標を達成するには、コンピュータに命令を出し、自分の意図した動きを試行錯誤しながら実現するというプログラミング体験が欠かせません。このような体験を通じてこそ、子どもたちは「プログラミング的思考」を働かせながら、コンピュータの仕組みやプログラムの意義を理解し、他教科の学びとの関連にも気づいていきます。
ここからは実際の授業について、小・中・高別にみていきましょう。
■小学校
小学校では、「プログラミングを体験すること」が中心です。例えば、図形を描くプログラムを作ることで算数の学習を深めたり、理科の授業でセンサーを使った観察を行ったりと、教科と組み合わせた実践が行われています。ただし、教科の中での取り組みは学校によってまちまちであるという調査結果もあります。

また、タブレット端末やプログラミングツールを使いながら、ICT機器に親しむことも目的の一つです。子どもたちは楽しみながら操作に慣れ、デジタルツールを使った表現の幅を広げていきます
■中学校:
中学校では「技術・家庭科(技術分野)」の中で、「計測・制御のプログラムによる問題の解決」が主な学習内容とされています。
授業では、マイコンボードを使って、LEDを点灯させたり、温度や明るさに応じてモーターを動かしたりする実習が行われています。たとえば、距離センサーとブザーを用いた防犯装置の製作や、温度センサーによる自動換気システムの設計など、現実的なテーマに取り組むことで、技術の仕組みを体験的に理解することがねらいです。

■高校:
高校では「情報Ⅰ」が必修となり、より高度なデータの扱いやネットワーク、アルゴリズムの基本を学びます。プログラミングでは、AI分野でひろく用いられているPythonなどの言語を用いた実習を通じて、データ処理や問題解決の手法を学ぶことが多く、情報セキュリティやデータの信頼性といった社会的なテーマについても取り上げられます。

(3)大学入試「情報」って?
2025年度から大学入学共通テストに「情報」が加わりました。この科目では、プログラミングの知識だけでなく、情報モラルやデータ分析、論理的思考力などが問われます。
高校「情報Ⅰ」で学ぶ内容がベースとなっており、データを正確に読み取る力など、実社会での情報活用力が重視される傾向です。回答方法は選択式ですが、問題を論理的に分析し、正しい選択肢を選ぶ必要があります。
プログラミングについては、特定の言語ではなく、共通するアルゴリズムを回答させるような問題になっています。

(3)プログラミング教育はこれからどうなっていくの?
大学入試の傾向からもわかるように、プログラミング教育は自分で見る力、考える力、表現する力の育成を目指しています。
さらに近年、生成AIをはじめとする新たな技術の登場により、教育に求められるものが大きく変わってきています。自ら問いを立て、創造的に解決する力の育成が急務となり、そのため文部科学省は2025年5月に、このような「探究的な学び」の中に情報活用を盛り込むことを提言しました。

探究的な学びの中で、プログラミングは単なる技能ではなく、表現手段や課題解決を支えるツールとして位置づけられています。ICTを活用して仮説を検証したり、アイデアを具体化したりする過程でプログラミングが用いられ、これまで以上に教科横断的な学びとの結びつきが強まっています。
こうした動きは、小学校の「総合的な学習の時間」にも広がります。地域の課題をテーマにした探究活動や、社会科・理科などの学習と関連づけたプログラミングの実践が行われていきます。子どもたちは、自ら設定した課題に対して、調査やデータの分析を行い、その結果をプレゼンテーションするのにICT技術を活用するなど、表現の幅を広げていきます。
さらに、中学校ではこれまで1つの教科だった技術と家庭科が分離され、「技術」が新教科として独立する方向です。授業ではAIやプログラミングによるデバイス制御などの技術を、社会課題の文脈に沿って実践しながら用いていきます。

具体的には、センサーやAI技術を活用して課題解決に挑む活動や、データの収集・分析をもとにアルゴリズムを設計し、繰り返し試行錯誤しながら目的を達成するような学びが推奨されています。例えば、農地にデバイスを持ち込んでセンサーでデータを取得し、データを子どもたちが分析することで農業の課題を解決する、という取り組みが紹介されています。
まとめ
この記事では、プログラミング教育の今と未来について紹介しました。情報技術に親しみながら、徐々に社会と接続していくような取り組みが中心になっていることがイメージできたのではないでしょうか。
ここからもわかるとおり、プログラミング教育はプログラムを書けるプログラマーを育成するものではありません。人がより良く生き、社会全体をより良くしていくために、自分で考えて表現する力は欠かせません。その力は今後技術がどれだけ発展したとしても、その価値が変わることはないでしょう。プログラミングはその力を身につけるための手段のひとつなのです。
おすすめ記事
参考
- 文部科学省(2025). 質の高い探究的な学びの実現(情報活用能力との一体的な充実)
- ―(2025). 情報活用能力の抜本的向上(デジタル化社会の負の側面への対応を含む)
- ―(2020). 小学校プログラミング教育導入の手引
- 独立行政法人大学入試センター(2025). 令和7年度大学入学共通テスト「情報」
- みんなのコード(2023). 2022年度 プログラミング教育・高校「情報Ⅰ」実態調査